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【湯浅麗歌子選手スペシャルインタビュー|後編】言い切る覚悟。

【湯浅麗歌子選手スペシャルインタビュー|後編】言い切る覚悟。
森 和哉
フィジカルデザイナー5年 前
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世界柔術選手権4連覇王者

湯浅麗歌子選手スペシャルインタビュー『覚悟。』

【後編】言い切る覚悟。

前回は世界柔術選手権連覇のお話からご自身の体調管理について、うかがいました。追う立場から追われる立場へと変わりつつも、毎年課題を設定しそれをクリアしていく姿に挑戦者のスピリットを感じます。またお料理の腕前に驚くと共に、それを語るときの湯浅選手の楽しそうな表情が印象的でした。

この最終回では、今後のビジョン、柔術への想い、そして読者の方へのメッセージをうかがっています。

(取材協力/GRABAKAジム東中野 カメラ協力/森二朗 タイトルバック写真ⒸIsao Amano)

衝撃の告白!? 憧れは寮母さん

--選手権連覇は当然の目標と思われますが、今後についてお聞かせ願えますか。

私、本当は寮母さんになりたいんです! 誰にも言ったことないですけど(笑)

--ええっ、寮母さん? 衝撃の告白ですよ、それは(笑)

寮母さんに憧れています。アスリートの子たちに炊事洗濯をしてあげて、カロリーと栄養を考えたご飯を用意してあげて、お腹いっぱい食べてもらって練習に集中してもらう。一番やりたいのが寮母さんなんです!

--じゃあ柔術は?

もちろん柔術を引退してからの話です(笑)以前は先のことなんてあまり考えていませんでした。でも20代後半に差し掛かり5年後、10年後を考えるようになって…5年後はまだ柔術をやっているでしょうし、じゃあ10年後はどうかな?とか。結婚しているかもしれないし、子どももいるかもしれない。で、考えると寮母さんなんですよ!(きっぱり)そこにたどり着きました。

--…いや、あの~…普通に考えて柔術を教えるのが一番よいのではないでしょうか…

(質問にはあまり関心なさそうに)寮母さんになると考えたらワクワクしてきて。それまでは最低限暮らせるだけのお金があればいいと思ってましたが、先のこと考えたら貯金しなきゃと考えるようになり…でも練習時間は削れないしどうしようかと悩んでいた時、GRABAKAのオーナーさんから「柔術キッズクラス」インストラクターのお話をいただき、ありがたくお引き受けしました。すでに「柔術一般クラス」の指導をしていましたし、ジムでの指導であれば練習時間を削らなくて済みます。子どもの指導はある意味、大人のクラスより頭を使うので(笑)自分の指導スキルアップにもつながり、よい刺激になっています。

--ジム経営に興味はないですか?

経営となるとまた違ってきますよね。経理とかなにやらで。なので考えていません。

教えることについては、学生時代から「先生になれば」とよく言われました。元々教えるのは好きです。ただ、学校の先生は本当に大変なので無理だなぁと。もしなれるならスポーツ競技を教えるのがいいですねぇ。(ふと気付いたかのように)あっ、だからここ(GRABAKAジム東中野)が一番いいんですよ!だって、ジム経営しなくても指導できますし、練習も好きなだけやらせてもらえるので(笑)

自分のことは自分にしかできない

--長時間にわたるインタビュー、ありがとうございました。そろそろ最後になります。読者の皆さんへのメッセージをお願いできますでしょうか。

私、マンガが好きで『あさひなぐ』(薙刀<なぎなた>にかける女子高生の青春ストーリー)に出てきたんですけど…興味があるものがたくさんあると、とりあえずやってみて壁にぶつかると辞めちゃうみたいな。昔からよく器用貧乏って言われたんですけど。でも、何かを見つけられないのならたとえ壁にぶつかってでも、もう少し頑張ってみよう!と思えたんですね。柔道だってもう少し頑張れてたらと、今でも思うことがあります…

…しばし沈黙…

(意を決したかのように)ならば柔術で頑張ってみようと。好きだからやってきたのは確かなんですけど、結果を残せたからこそホントに「好きだった」と今言い切れるのかもしれません。もしかしたら他のことでもよかったのかもしれませんね(しみじみ)

--でも、それってわからないですよね? だっていくつもの生き方を選べるわけではありませんから。

はい、柔術が自分に合っていたのかだってわからないですよね。でも出会ったのが柔術だった…そしていろんな人との出会いや縁の中で「今ここにいる」わけです。その意味では柔術でよかったんだなと思えるんです。

--それはそのような環境でご自身が行動されたからこそ「今」があるのではないでしょうか。

昔は有言実行でありたいと思っていました。でも、それができない時があって「なぜ?」と考えると、最初から乗り気でなかったことがほとんどなんです。そもそも好きでなかった。逆に言えば、好きならばなんとか続けられるはずです。嫌々やってのそこそこの結果より、今結果が出なくても(好きなことを)続けていけばなんとかなるんじゃないかと思えるようになりました。

昔からいつも「何をやるにせよ一番を目指しなさい」と言われてきました。たとえそれがどんな小さなことでも、小学校の書道大会などでも、です。そこで思ったのは、一番を目指すならば嫌々やる類のものではなく好きなもので目指すべきだということでした。

--好き、一番、続ける…行動の原点を感じます。

世界チャンピオンになりたい人はたくさんいるわけです。強豪国ブラジルにはそれこそ何人もいるでしょう。その中で「なれたらいいな~」程度では絶対になれないですよね。「なるしかない」なんです。他のことであまり言い切ったりはしないんですが(笑)柔術だけは「世界チャンピオンになる!」と決めていました。だって柔道や水泳を何かのせいにして辞めてしまったんです。柔術だけはやり切ろうと決めていましたし、もしこれがやり切ったうえで結果を残せなかったとしてもそれはそれでいいと。仕事を辞め柔術に専念する環境を作ったのは、そんな理由からです。

--まさに背水の陣。言い訳できない環境を作られたわけですよね。

何かを始めたり、取り入れたりするのは、やっぱり自分なんだと思います。人から言われてやるというのは、きっかけとしてはありかもしれません。ただ、自分にとって合っているのかどうかは自分自身しかわからないはずです。それを探していくのが大切です。

たとえばダイエットでも、ある運動を「1日10回3セット行うのがよい」と言われていても、はたして本当に効果を実感できているのかを(自分自身に)常に問い掛けるべきですよね。他のことでも同じです。これが最善なのかを考え続ける。スタートが10回できなければ2~3回でもいいわけです。ならばそれを週に数回やるだけなのか、それとも毎日コツコツやってそれが習慣になるのかで結果は違ってきます。どう考えても毎日コツコツのほうがいいですよね。

お料理だって、最初から全部自炊しようとしたら続きません。外食を取り入れつつも、少しずつお料理を始めれば「今日はもう一品ほしいなあ」とか、それでレパートリーを増やせれば料理が苦でなくなります。

やり切っている人って、すべてを伝えがちです。柔術でも最初からすべてをこなすのはムリなので、教えるときはいちおう全部を伝えたうえで、白帯の人はまずこれだけをやってください、靑帯の人はこれとこれ、という具合に個別に指導します。体型だって違います。それぞれに見てあげないと、何が理由でできないのか、本人もわからないはずです。個別に見極めて説明してあげないと特に初心者の人は「向いてないんじゃないか?」とモチベーションを下げがちです。そうじゃないんですよと、しっかり指導してあげたいですね。子どもも同じです。

自分のことは自分にしかできません。遠回りしてでもいいので自分で考え、自分に素直に動けば何かを見つけられると信じています。

9/23のQUINTETアマチュア大会にてチーム優勝。先鋒、次鋒で勝利を決めたため大将湯浅選手は出番なし。残念

【取材後記】

全3回にわたるインタビューで湯浅選手のお話に通底していたのは「覚悟」でした。決断する覚悟、挑み続ける覚悟、そして言い切る覚悟。この覚悟こそが世界の頂点へと昇り詰め、さらには連覇をもたらす原動力なのだと感じました。

では覚悟さえあればすべては叶うのか。それは誰にもわかりません。ただ少なくとも自分を信じ続けなければ、何かを成し得ないのは確かでしょう。「世界王者になる」「日本一練習をしている」、ともすれば大言壮語と受け取られかねない言葉です。しかし彼女が話すように「なれたらいいなぁ」ではなれるはずもなく、心底追い求めるからこその心の叫び、そして揺るぎない自信からの言葉に「覚悟」を感じるのです。時に感極まりながら出てくる言葉は重くもありました。

先日、サッカー日本代表の元監督岡田武史氏の講演を聴く機会がありました。「判断」とは論理的な思考の末導く結論を指し、「決断」とは論理的な思考を重ねた末、導けないことに対し下すべき結論、という表現をされていました。決断を後押しするのは想いや情熱であり、その成否は結果だけに委ねられます。結果を残せれば、その決断は正しかったと言えるのです。

湯浅選手は結果をもって自身の決断が正しかったことを証明してきました。これからも彼女の決断は続くのでしょう。そして、その決断こそが最良の選択であったと納得できるよう、日々過ごされるはずです。誰のためでもなく自分自身のために。

私たちもそうありたい。

湯浅選手、ありがとうございました。

なお、湯浅選手は2018/12/9(現地時間)テキサス州オースティンにて開催される『Eddie Bravo Invitational 18:女子 -52㎏級(Female Strawweights / 115lb.)』に出場します。UFC FIGHT PASSにて視聴可能です。皆さんで応援しましょう!

湯浅 麗歌子(ゆあさ りかこ)選手プロフィール

2015年から今年まで、日本人初となる世界柔術選手権(通称ムンジアル)黒帯部門4連覇並びに2階級(ルースター級、ライトフェザー級)制覇を成し遂げたブラジリアン柔術家。日本人初世界柔術選手権優勝者である佐々幸範の直弟子。日本、アジア、世界と獲得したタイトルは数知れず「寝技世界最強女子」の異名を持つ。さらなる高みを目指し2019年、5連覇に挑むと共に戦いの場をグラップリングにも広げ、今年12月9日テキサス州オースティンにて開催されるEBI 18 (Eddie Bravo Invitational)、女子-52㎏級(Female Strawweights / 115lb.)に参戦。料理の腕前はプロ級で趣味の域を超えつつある。好きなものは初音ミクとあんこ。

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森 和哉
フィジカルデザイナー
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国立大学法人熊本大学大学院教授システム学修士。効果・効率・魅力的な教え方を実践できる専門家(Instructional Designer)として、特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム認定eラーニング・プロフェッショナル資格(ラーニングデザイナー、コンサルタント)を持つ。また全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)認定Personal Fitness Trainer(PFT)、Revolution Training System Specialist(RTS)資格を持つ。 30年以上にわたりフィットネスだけでなくニュートリションを含めたあらゆる分野のトレーニングプログラム開発に携わる。活動の原点には、教わる人たちは一人ひとり学習への理解度は異なるといったB・S・ブルーム(Bloom)の学習理論mastery learning(完全個別学習)がある。この理論をフィジカルトレーニングのパーソナライズ化へと再構築し、パーソナルトレーニングの必要性を啓蒙している。 現在は各種プログラム開発と共に、パーソナルトレーナー石原サンチェス陽一率いる『Team SANCHEZ』に所属しフィジカルデザイナーとしてトレーナー活動に従事。またその傍らマラソン、ボクシング、ボディメイク大会に出場。フルマラソン走破を皮切りに、おやじファイトボクシングフェザー級出場(1戦1勝1KO)、2017ベストボディジャパンゴールドクラス東京オープン5位入賞、2018東京大会ファイナリストとなる。自らの実践を通じてフィットネスの素晴らしさ、ニュートリションの必要性を発信している。 Facebook: https://www.facebook.com/kazuya.mori.543
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