競技者なら知っておきたい「アンチ・ドーピング」の必須知識
ボディコンテストから各種スポーツ競技まで、アスリート志向の方なら気になるのが「ドーピング」の問題。ここではドーピングとは何か、ドーピングの歴史、どんな物質がドーピング薬物に当てはまるか、どこに注意したら良いのかまで詳しく解説していきます。
ドーピングの歴史
ドーピングの語源は、一説によると南アフリカの原住民が飲んでいた「dop」というお酒であると言われています。戦闘や狩猟の際に、興奮作用のある植物を口にする、または強い酒を飲むことで、普段以上の力を出したり恐怖心や眠気をなくしたりすることを目的としていました。
スポーツ界におけるドーピングの記録は、1865年のアムステルダム運河水泳競技が使用した覚せい剤であるアンフェタミンが最も古いといわれています。1886年には自転車競技の「ボルドー~パリ」において、興奮剤であるトリメチルの過剰摂取による事故が発生しました。これがドーピングを原因とした最初の死亡事故となります。
また、1960年のローマオリンピックで、アンフェタミンの使用による自転車競技(男子団体ロードレース)の死亡事故をきっかけにオリンピックでのドーピング防止対策が本格的に検討され、1968年のグルノーブルとメキシコシティーで開催されたオリンピックからドーピング検査が実施されるようになりました。
現在では世界アンチ・ドーピング機関(WADA)によりアンチ・ドーピングに関する規則が定められ、オリンピックや世界大会等で厳正な検査が行われています。日本でも公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)を中心としてアンチ・ドーピングへの取り組みが積極的に行なわれていますが、一般選手や指導者のアンチ・ドーピングに関する知識はまだまだ浸透しているとは言えないのが実情です。
ドーピングとは
世界アンチ・ドーピング規程及び本規程を支持する世界アンチ・ドーピング・プログラムの目的は、次のとおりである。 • ドーピングのないスポーツに参加するという競技者の基本的権利を保護し、もって世界中の競技者の健康、公平及び平等を促進する。 |
日本アンチドーピング機構JADAによると上記のようにドーピングを禁止とするのには、大きく分けて4つの理由があります。
1.スポーツの価値を損なう
ドーピングをすることでスポーツの楽しさや厳しさを奪い、スポーツに関わる全ての人や競技自体の尊厳や品位を損なうことになります。
2.フェアプレイの精神に反する
フェアプレイとは自己を信じて,最善を尽くすこと (Excellence),仲間を信じる こと (Friendship),他者を尊敬すること (Respect) の三つです。 |
引用元(2) - https://www.playtruejapan.org/school/jada_textbook_01.pdf
ドーピングは、このフェアプレイの精神とはかけ離れた行為です。使用することは自分や相手選手だけでなく、自分を支えてくれる人たちをも裏切ることになります。
3.健康を害する
ドーピングすることで競技者に副作用、健康被害が現われる可能性があります。ドーピング薬物としてよく使われるタンパク同化ステロイド、いわゆるステロイドは心筋梗塞、糖尿病、イライラしやすくなる、攻撃的になる、うつ傾向など性格の変化や、男性の場合は精巣萎縮や女性化、女性の場合は多毛や声変わりなどの男性化を起こす危険があります。
それらの副作用は使用を中止しても改善しない場合もあり、一生付きまとうことになります。ドーピングを行うことで、競技者の健康で安全な競技生活が脅かされるのです。
4.反社会的行為であるため、社会や青少年に悪影響を及ぼす
選手がドーピングに手を染めることが一般的になれば、世間の人々にもドーピングを許してしまう風潮が蔓延してしまいます。また、勝つためならば多少の違反行為や非道徳的なプレーをすることにも抵抗がなくなり、フェアプレーの精神を損ねることにも繋がりかねません。
ドーピングに指定される物質の特徴
物質又は方法が次に掲げる 3 つの要件のうちいずれか 2 つの要件を充足すると、WADA がその単独の裁量により判断した場合、その物質又は方法についてドーピング対象となることが検討される。 1.当該物質又は方法が、それ自体又は他の物質若しくは方法と組み合わされることにより競技力を向上させ、又は、向上させうるという医学的その他の科学的証拠、薬理効果又は経験が存在すること。 2.当該物質又は方法の使用が競技者に対して健康上の危険性を及ぼす、又は、及ぼしうるという医学的その他の科学的証拠、薬理効果又は経験が存在すること。 3.当該物質又は方法の使用がスポーツの精神に反すると WADA が判断していること。 また、禁止物質又は禁止方法の使用が隠蔽される可能性があるという医学的その他の科学的証拠、薬理効果又は経験が存在すると WADA が判断した場合には、その物質又は方法もドーピング対象となることが検討される。 |
引用元(3) - 2015 年世界アンチ・ドーピング規程(一部加筆)
上に引用した3つの要件から分かることは、ドーピングとは絶対的な基準や根拠があるわけではないということです。
特に、3の「スポーツの精神に反すると WADA が判断していること」に関しては時代や世論によっても変わりうるものであり、人間の価値観や主観が大きく反映されているものと考えて良いでしょう。
人の主観によりドーピング指定物質になったと思われる、メルドニウムについて紹介します。
2016年にテニス選手マリア・シャラポワが使用してドーピング違反となり有名になりました。メルドニウムは2018年7月現在、日本では厚生労働省から認可を受けていませんが、ロシアなどでは現在も(狭心症などの)治療薬として使用されています。
- 2015年に行われたヨーロッパ競技大会の出場選手662人の762検体中のうち、8.7%にあたる66検体が陽性となった(4)。
- その中で21種目中15試合の出場選手と13人の優勝者の検体が陽性となり、全出場選手662人中の3.5%にあたる23人が競技力向上のため摂取をしていたことを認めた(4)。
- 一般的に健康な選手らにおけるこの処方薬の不適切な使用および処方の可能性があるため、WADAは2015年に監視プログラムに指定し、2016年1月1日に発効となる禁止薬物に指定した(5)(6)。
ここで問題となるのは、メルドニウムには頻脈や血圧低下などの副作用が起こる可能性はありますが、通常の使用量ではステロイドと違い重大な副作用が見られない点です。持久力や疲労回復等の競技力を向上させ、スポーツの精神に反すると WADA が判断したことで当薬物はドーピング指定物質になったと推察されます。
スポーツの精神に反すると WADA が判断する基準、ドーピング指定を受けるか受けないかの違いは、健康上の危険性がなく誰もが手軽に入手できる食品であったり、食品の抽出物・加工品であったりすれば問題ないと考えられます。
これらに当てはまるのが一般的なサプリメントで、たとえばプロテイン・BCAA・ビタミン剤などはドーピングに該当しません。
しかし、サプリメント摂取により意図せずドーピング陽性になる、「うっかりドーピング」には注意が必要です。摂取したサプリメントに禁止薬物が含まれていることで,ドーピング検査で陽性となるケースがあるからです。
日本でのドーピング防止規則違反の多くは,知識不足や不注意により禁止薬物を使用してしまう「うっかりドーピング」であり,競技力向上を意図していないものである。 実際に JADA が公開しているドーピング防止規律パネル決定報告を精査すると,平成 19 年度から平成23 年度の違反事例 32 件のうち,非意図的なドーピングを疑われる事例は少なくとも 20 件(62.5%)はあると推察できる。 |
引用元(7) - https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/39/6/39_338/_pdf(一部加筆)
ここから分かることは、故意にドーピングをしているのではなく、サプリメントなどから誤って該当成分を摂取してしまう事例が多いことです。第三者機関から検査を受けていないサプリメントであったり、出所のわからない海外製のサプリメントを摂取することでうっかりドーピングのリスクを上げてしまう結果になります。
まとめ
ドーピングが禁止されている理由や、使用するとどうなるのかについてはお分かりいただけたでしょうか。
何が成分として入っているかわからないサプリメントを使用することは,自分の体内からドーピング陽性物質が検出されてしまうリスクを負うことになります。そのため、サプリメントを選択する際はドーピング成分の入っていない商品であるかを事前に確認してから摂取することが大切です。
マイプロテインの商品はInformed-SportやKölner Liste(ケルンリスト)などの認定商品が多数あります。自分が納得いく選択を行い、ドーピングの心配のない良質なサプリメントを摂取するよう心がけましょう。